Stond wel, Moder《しゃんと立って、母上》


"Stond wel, Moder, under rode,
Bihold thi child wyth glade mode;
Blythe, Moder, mittu ben."
"Sune, quu may blithe stonden?
Hi se thin feet, hi se thin honden
Nayled to the harde tre."
「しゃんと立って、十字架の下の母上
 もっと嬉しげにあなたの子を見てください
 幸福な母となられるのですから」*1
「息子よ、どうして幸福そうに立っていられましょう
 あなたの足が、あなたの手が
 堅い木に釘づけられているのを見てるのに」

"Moder, do wey thi wepinge:
Hi thole this ded for mannes thinge;
For owen gilte tholi non."
"Sune, hi fele the dede stunde;
The swerd is at min herte grunde,
That me byhytte Symeon."
「母上、すすり泣くのはよしてください
 わたしの死の苦しみは万民のためなのです
 わたしの罪ゆえの苦しみではないのです」
「息子よ、死に至る痛手をわたしも感じています
 剣がわたしの心を貫いています
 シメオンがかつてわたしに預言した剣が」*2

"Moder, reu upon thi bern:
Thu wasse awey tho blodi teren,
It don me werse than mi ded."
"Sune, hu mitti teres wernen?
Hy se tho blodi flodes hernen
Huth of thin herte to min fet."
「母上、あなたの子を憐れんでください
 そして滴り落ちる涙を拭ってください
 その涙が死ぬことよりもつらいのです」
「息子よ、どうして涙を止められましょうか
 血が噴き出してほとばしり
 あなたの胸からわたしの足下にまで届くのを見てるのに」

"Moder, ny y may thee seyn,
Bettere is that ic one deye
Than al mankyn to helle go."
"Sune, y se thi bodi swngen,
Thi brest, thin hond, thi fot thur-stungen
No selli thou me be wo."
「母上、今こそ申し上げますが
 わたしひとりが死ぬ方がましでしょう
 全ての人が地獄へ行くよりも」
「息子よ、あなたの身体がぶら下げられ
 胸が、手が、足が貫かれているのを見て
 わたしが嘆くのも不思議はありません」

"Moder, if y dar thee tellen,
Yif y ne deye, thu gost to helle;
Hi thole this ded for thine sake."
"Sune, thu best me so minde.
With me nout; it is mi kinde
That y for thee sorye make."
「母上、あえて申し上げますが
 もしわたしが死ななければ、あなたが地獄に行くことになる
 わたしの死の苦しみはあなたのためなのです」
「息子よ、あなたは本当に優しい子
 責めないでおくれ、これはわたしの性分なのです
 あなたゆえに悲しみをあらわにしてしまうのは」

"Moder, merci, let me deyen,
For Adam ut of helle beyn
And al mankin that is forloren."
"Sune, wat sal me to rede?
Thi pine pined me to dede;
Let me deyn thee biforen."
「母上、ありがとう、どうぞ死なせてください
 地獄からアダムを
 全人類を救い出させてください」
「息子よ、わたしに何をさせようというの
 あなたの苦しみがわたしを死ぬほど苦しめる
 どうかあなたの前にわたしを死なせておくれ」

"Moder, mitarst thi mith leren
Wat pine tholen that childre beren,
Wat sorwe haven that child forgon."
"Sune, y wot y kan thee tellen,
Bute it be the pine of helle,
More sorwe ne woth y non."
「母上、今こそ理解なさったでしょう
 子を持つ者の悲しみ、
 子に先立たれる者の悲しみを」
「息子よ、はっきりと言えますとも
 地獄の苦しみの他には
 かくも大いなる苦しみはありますまい」

"Moder, reu of moder kare,
Nu thu wost of moder fare,
Thou thu be clene mayden man."
"Sune, help alle at nede,
Alle tho that to me greden —
Mayden, wyf, and fol wyman."
「母上、母心というものに憐れみを
 母とはいかなるものかお知りになったのだから
 清いおとめでもありながら」
「息子よ、全ての求めるひとをお助けください
 わたしに嘆願してくるすべての者を
 おとめを、人妻を、愚かな女を」

"Moder, y may no lenger duellen;
The time is cumen y fare to helle,
The thridde day y rise upon."
"Sune, y wyle withe funden.
Y deye ywis of thine wnden;
So reuful ded was nevere non."
「母上、もはやこれまでです
 時は至り、わたしは地獄にゆく
 三日目にはわたしは目覚めるでしょう」
「息子よ、わたしも共に逝きましょう
 わたしも死にます、まさにあなたの痛手ゆえに
 かくも痛ましい死は他にありますまい」

When he ros than fel thi sorwe:
The blisse sprong the thridde morewe
Wen blithe, Moder, wer thu tho.
Moder, for that ilke blisse
Bisech ure God, ure sinnes lesse,
Thu be hure chel ayen hure fo.
御子がよみがえられたとき、御母の悲しみも離れ去った
至福の春が三日目の朝におとずれた
そのときあなたは幸福な母となられたのだ
御母よ、この至福のゆえに
御子にとりなしたまえ、我らの罪が除かれんことを
あなたこそ、仇なす者どもからの我らの盾

Blisced be thu, quen of hevene,
Bring us ut of helle levene
Thurth thi dere sunes mith.
Moder, for that hithe blode
That he sadde upon the rode
Led us into hevene lith.
Amen.
祝されたまえ、天の女王よ
我らを地獄から連れ出したまえ
あなたの愛する御子の力をして
御母よ、かのまことの血ゆえに
十字架の上から流れ落ちた血ゆえに
天の光の中へ導きたまえ
アーメン

*1 blythe=blithe 「楽しげな」「快活な」「ハッピーな」
*2 赤ん坊のイエスを連れてきた聖母マリアに、祝福と預言を与えた預言者。→《シメオンの賛歌

text & tune: 13世紀イギリスの作者不詳の歌曲。歌詞はラテン語の宗教詩《Stabat iuxta Christi crucem》をもとにしている。

聖母マリアが崇敬されるのは、処女懐胎したからでも神の母だからでもなく、大衆に軽蔑され処刑される我が子に最後まで寄り添い続けた偉大な母だからである。キリスト教の各教派でもマリアの扱いはまちまちだが、キリスト教が世界に伝播するにつれ、元々あった女神信仰を吸収したことで、あらゆる人にとっての理想的な美しい慈母という命題を一手に引き受けた。聖母は実際の血縁を越えたあまねく万人の母として、そのイメージは不滅である。

関連 →《たたずめる御母
参考サイト

Anonymous 4版



ヒリヤード・アンサンブル版(CDのみ)

(収録曲が入ってないけど、このアホみたいに高いCD『夏は来たりぬ』の新装版)
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by CockRobin96 | 2015-06-23 22:25 | Trackback(1) | Comments(0)
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ボッティチェリ と フィレンツェ・ルネサンスBotticelli and Florence Renaissance ボッティチェリ(1445-1510年)に代表されるフィレンツェ・ルネサンスは、メディチ家に代表されるフィレンツェ金融業の繁栄が生み出した偉大な文化遺産といえます。東京渋谷のBunkamuraザ・ミュージアム では、ヨーロッパの貿易と商業を支配しルネサンスの原動力となった金融業の繁栄と、フィレンツェと運命をともにした画家・ボッティチェリのイタリア、フランス、アメリカから集めた10数点を含む...... more
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